36 巻 (1999) 10 号 p. 690-694
遺伝子治療の発想は, 遺伝性疾患に対する治療法の決定打として生まれてきた. その後, 細胞に遺伝子操作を施すステップを取り入れた治療法全般を指して遺伝子治療といわれるようになり, 大きな広がりを持つようになってきた. 患者数の少ない遺伝性疾患よりも, 癌やエイズなどの重篤な後天性疾患を主な対象として, 予想を超える勢いで臨床研究が進められている. さらに, 新しい動きとして, 心血管病変などの慢性疾患も遺伝子治療の対象に含まれるようになっている. 一方我が国では, アデノシンデアミナーゼ欠損症に対する遺伝子治療が1995年に北海道大学で実施されて以来しばらく停滞していたが, 最近, 癌に対する遺伝子治療の試みが活発となっている. 何らかの形で遺伝子の投与を受けた患者数は, 1998年には全世界で約3,000人を突破したが, ほとんどの場合まだ臨床的有効性は確認されず, 実験的医療の段階に留まっているのが実情である. その最大の理由は, 遺伝子導入法などの基盤テクノロジーが実用レベルに到達していないことである. したがって, ベクターを含めた遺伝子導入システムの開発が最大の鍵を握っている. 遺伝子導入法としてはレトロウイルスが代表的なものであるが, 研究面では, アデノ随伴ウイルス (AAV) ベクターやレンチウイルスベクターが現在大きな脚光を浴びている. また, 造血幹細胞を標的とした場合には, 遺伝子導入造血幹細胞を体内で選択的に増幅させるシステムの開発も進んでいる. 全く新しい角度からの治療法を開拓することが可能になったという意味では, 遺伝子治療が画期的な方法であることに間違いない. 近い将来, 遺伝子治療テクノロジーが医療の中に様々な形で取り込まれ, 基本的医療技術の一つとして重要な位置を占めるようになるものと予想される.