抄録
地域住民の調査において, 特に施設の入所者や一般内科, 外科の入院患者においては, 精神障害を有する高齢者は多く, 高齢者の精神医学的脆弱性は, 老年医療の実地医家にとって看過できない問題となっている. 高齢者の心の脆弱性には, 様々な喪失体験のような心理的背景に, 神経伝達物質や神経細胞の減少など生物学的な背景が絡み合っている. 老年医療に携わる者が注目すべき第二の問題は, 高齢者における強い心身相関である. 最近の精神免疫学の知見では, 抑うつや情動ストレスは免疫機能を低下させ, それがさまざまな身体疾患を招くことも知られているが, 高齢者においては, 特に細胞性免疫の機能が低下するため, 精神状態による免疫機能の低下の影響が大きなものとなる. また, 高齢者の抑うつは,栄養状態の低下や脱水などを通じて, さまざまな身体疾患を誘発する. 逆に高齢者の精神医学的脆弱性のため, 身体疾患が抑うつを誘発することも多い. このように, 高齢者においては, 身体疾患と精神機能の結びつきが強いため, 心のケアの重要性は高い. 高齢者の心のケアを行う際には, あらゆる症状を見落とさず, 生物学的な治療を軽視せず, さらに相互依存を許容したり, 自己愛のサポートするなど高齢者の特性に合わせた心理的サポートを行うことが肝要である.