日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
21世紀の緩和医療
中川 恵一岩瀬 哲村上 忠斉藤 勇一郎佑藤 嘉代子梅内 美保子大友 邦
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2004 年 41 巻 1 号 p. 16-22

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抄録

がん治療率の改善は, がん患者の増加やその高齢化に追いついてはおらず, がんによる死亡率は増加傾向にある. これに伴い, がんの緩和医療はさらに重要性を増している.
WHOでは, 緩和ケアを「治癒を目的とした治療に反応しなくなった患者に対する積極的で全人的なケアであり, 痛み, その他の症状のコントロール, 心理面, 社会面, 精神面のケアを最優先課題とする. 緩和ケアは, 疾患の早い病期においても, がん治療の過程においても適用されるべきである.」と定義しているが, 東大病院での医療者に対するアンケート結果からは, その普及は明らかに不十分であることが伺える. この原因としてとくに緩和医療に関する卒後教育の欠落などがあげられるが, 来年度からの新臨床研修体制のなかには「緩和・終末期医療」が組み込まれており, 今後に期待したい.
一方, 緩和ケア病棟や緩和ケアチームなど, 行政側からの働きかけがあり, 受け皿は整備されつつあるが, 今後, がん性疼痛のWHO方式のコントロール方法, サイコオンコロジーの考え方などが普及していくことが重要である. また, これまでは治療方法がなくなった時点で緩和医療へ移行する例が多く見られたが, がん診断の当初から治療と並行して緩和ケアを開始し, 末期になるに従い治療よりも緩和ケアの比重を高くしていくべきであり, 末期であっても緩和的がん治療の可能性を捨てるべきではなく, とくに緩和的放射線治療の重要性を強調したい.
緩和医療は, アングロサクソン諸国で発達した医療の考え方である. もちろん人種を越えた普遍性を持つものであるが, その実践においては, 社会的, 文化的背景を無視できない. 今後, 日本人の死生観や社会構造に根ざした「日本型緩和医療」が確立されるべきであろう.

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