遺伝学雑誌
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コマユバチの遺傳學的研究
I. コマユバチの伴性遺傳と性の決定
稻葉 文枝
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1944 年 20 巻 2 号 p. 27-47

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抄録
1. コマユバチには普通の半數性雄, 二倍性雌の他に近親交配に生ずる少數の二倍性雄, 三倍性雌, 極く稀に三倍性雄, 片親性雌があり, 又性異常型として半數性モザイク雄, 半數-二倍數モザイク雄, モザイク雌, 雌雄モザイク, 片親性雌雄モザイク, 二倍性雌雄モザイク, 擬雌雄モザイク等の性型があり, 尚人爲的に誘起せられた片親性雌, 片親性倍數雄がある。
2. コマユバチの性決定説には補足的性決定説 (Whiting) があり, 異系交配の生殖現象を説明する補助説の主なるものに同義因子説 (Snell) 及び複對立因子説 (Whiting) がある。
3. 我國のコマユバチHabrobracon pectinophorae Watanabeのebony因子はH. juglandisfused因子と同樣な伴性遺傳をし, 性因子との交叉率は13-33%である。
4. 異系交配に於てはebonyの伴性現象は消失する。
5. 異系交配のF1雌にそれ自身の息子のebを退交雜すれば再び明らかなる伴性現象が現れる。之はSnellの同義因子説に反證を與へる。
6. Whitingの複對立因子説は性因子の概念の不明な點及び性因子と伴性因子との交叉率の變異の大なる點に對し説明を要する。
7. 以上の點を解明する爲に此類の性決定に對し複合性因子説が提示され, 性の決定は次の如く考へられる。
雄性決定因子はX染色體上にあり, xa, xb, xc....の如く部分的相同性を有する複對立小因子群から成る複合因子である。eb又はfuは之と聯關する。雌性決定因子群は常染色體上にあり, 強さを異にするものが種々の形質因子との聯關により標づけられてゐる。半數では常に雄性決定因子が雌性決定因子群に打勝ち雄となる。倍數では雄性決定小因子がホモ又は多くの相同部を有する時には二倍性雄となり, 相同部が少いか又は全くヘテロの場合には其力は雌性決定因子群に劣り雌となる。
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