損害保険研究
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<研究論文>
近時の事故・災害と傷害保険の適用範囲
山野 嘉朗
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2015 年 76 巻 4 号 p. 1-29

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抄録

 近時,登山中に噴石の直撃を受けたり,低体温症で死亡したりする事故や,マダニ等,感染症の媒介生物や蜂,セアカゴケグモといった有毒生物に刺咬されるなどの事故が起こっている。そのような事故の被害者が傷害保険の被保険者である場合,保険保護が及ぶか否かという問題が浮上する。

 本稿では,それらの問題を,傷害保険の保険事故の要件である,傷害,急激性,外来性という概念を中心に検討するものである。

 まず,登山中の事故については,保険の種類と免責事由との関係を明らかにし,消費者に対する注意喚起が必要であると指摘した。

 次いで,急激性要件については,熱中症・低体温症との関係で検討を加えた。その結果,これを単に時間的な尺度のみによって判断すべきではなく,傷害発生の予見可能性・回避可能性をも判断要素に加えつつ,当該被保険者が置かれた状況を総合的に勘案した上で,要件成立の可否を判断すべきであると主張した。

 最後に,傷害概念については,有毒生物・媒介生物による身体毀損の問題を取り上げ,様々な約款解釈の可能性を提示した。その上で,損害保険実務がいかなる解釈を採用するにしても,保険利用者に対しては,その理論的根拠について明快かつ平易な説明が求められ,さらには,免責条項との関係で約款の整備も必要となると主張した。

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