2017 年 78 巻 4 号 p. 221-240
欧州司法裁判所は,2007年12月13日裁定において,被害者保護の観点から保険者に対して直接賠償請求を提起できるいわゆる直接請求権に関してEUにおいて対立していた国際裁判管轄の解釈問題に一定の回答を示した。本稿は,この問題について欧州でいかなる議論が存在していたのか,そして上記裁定はいかなる判断を下したのか,を考察するものである。EUでは上記裁定以後も学説から活発な議論が交わされており,本問題への議論は深化を遂げている一方,直接請求の国際裁判管轄に関する議論はわが国ではほとんどされておらず,平成23年の民訴法改正においても取り込まれることはなかった。以上の状況に鑑み,EUにおける保険実務への情報提供の観点から,また今後のわが国における立法論の一素材として,本裁定の評価・影響を中心に紹介・分析する。