損害保険研究
Online ISSN : 2434-060X
Print ISSN : 0287-6337
<論文>
責任投資の視点からみた損害保険会社の社会戦略
—三大損害保険グループの価値共創経営を中心に—
長谷川 直哉
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2017 年 79 巻 3 号 p. 1-52

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抄録

 本稿は,損害保険会社の社会戦略を分析することを目的としている。本業の品質向上を通じて社会課題の解決に貢献するという姿勢は,三社に共通する要素であった。損害保険事業は,多様なリスクに対するソリューションを提供することで,経済損失の抑制と社会価値の創出に貢献してきた。損害保険事業は本質的にCSV的な側面を持った産業である。本稿で取り上げた三大損害保険グループに共通する社会戦略上の課題は,ビジネス・オポチュニティと結びつくプロセスについての説明が希薄なことである。責任(ESG)投資は,オポチュニティとリスクを評価するが,損害保険会社の開示内容は,CSV先進企業のNestle社に見劣りすると言わざるを得ない。現代は産業社会からリスク社会への移行期にある。リスク社会とは,これまでの人間の行為が自らの存在を脅かすリスクを生み出している状況を指している。損害保険会社には,複雑化するリスク社会を生き抜くためのソリューションの提供が求められている。「アウトサイド・イン」アプローチによって,外部環境の変化とシンクロさせた社会戦略を構想していくことが,損害保険事業のビジネス・オポチュニティを広げていくことになるといえよう。

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