山梨県甲府盆地の西部,釜無川と御勅使川の合流部付近には信玄堤と呼ばれる治水施設群がある.信玄堤に関する歴史的研究では,近世以降に築かれた可能性や,自然に起こった流路変遷を固定化するための工事であるという見解が示されてきた.しかしながら,自然科学的研究は少ないため,本研究では洪水氾濫シミュレーションを行って,これらの治水能力を再評価した.
現在の地形をスムージングした地形に各施設(石積出,白根将棋頭,竜岡将棋頭,堀切,竜王川除,かすみ堤)を配置し,dynamic wave model による御勅使川の洪水氾濫シミュレーションを行った.その結果,御勅使川の過去の流路が再現され,各治水施設が及ぼす影響を確認できた.これによると,石積出→白根将棋頭→堀切→高岩(岩壁)→竜王川除という順に設置されなければ,信玄堤は有効に機能しない.つまり,これらの施設は近世より前に短期間のうちに意図的に築かれた可能性が高く,既存の歴史的研究成果とは異なる結果が得られた.