地理学評論 Series A
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論説
長野県須坂市における果樹農業の品種更新プロセス
羽田 司
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2017 年 90 巻 6 号 p. 555-577

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抄録

本研究はあらためて重要性を増している新品種の普及プロセスの解明を試みた.その際,イノベーションの普及研究で欠落していた「連続性」と「マーケティング」の視点を取り入れた.結果,既知の事実が再確認されるとともに,以下の新たな知見が得られた.革新的とされる農家には,「恒常的に革新的な農家」と「一時的に革新的な農家」が存在した.前者は新品種の情報に精通した相手へ主体的に接触し,新品種の取引価格が最高値の時に収益を最大限にできるように行動していた.一方,後者は農業経営の転換期や社会的立場から模範的に早期の品種更新を行っていた.また,農家の出荷形態と新品種の普及には密接な関係性がみられた.農協共販を志向する農家では農協の推奨品種となることで新品種が短期間で普及する一方,贈答用を中心とする宅配を志向する農家では既存品種のみの栽培でも収益を獲得でき,知名度の低い新品種の普及は緩慢となっていた.

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© 2017 公益社団法人日本地理学会
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