地理学評論
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地域体系との関連でみた江戸明和期の“御蔭参り”の空間的拡散
杉浦 芳失
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1978 年 51 巻 8 号 p. 621-642

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抄録

流行の拡散過程の分析は,拡散チャンネルとしての地域体系の推定を可能にすると考えられる.本稿では,こうした観点に立ち,江戸明和期の御蔭参りの流行を事例とし,情報伝達手段の差異に着目しつつ,その拡散過程において当時の地域体系がいかに機能していたかを考察した.各国へ流行が伝わったと推定される日付(拡散日)を,地域傾向面分析ならびにモンテカルロ・シミュレーション・モデルによって分析した結果,以下のような結論を得た.明和の御蔭参りは山城から陸路を楕円状に拡がっていく一方,瀬戸内航路,北陸日本海航路を介して,西日本諸国,北陸諸国へ拡がっていった.こうした空間的拡散過程のなかで,中部山地が自然的バリヤー(障壁)の機能を果たし,東日本のいくつかの国では,浄土真宗信者,日蓮宗信者の伊勢信仰に対する宗教的抵抗が存在していた.とくに上記の航路が流行の拡散を早めていたことは,当時の大坂,京都を中心とする畿内地方が西日本地方および北陸地方との間に緊密な機能的関係を有していた事実と対応するものである.

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