本研究では,自立型農業経営の分析を手がかりとして,農村の地域的特性をとらえることを試みた.調査地区である茨城県出島村下大津は,首都圏の近郊外縁地帯に位置し,都市化の浸透にともなって,近年急速に変貌しつつある農村地域である.自立型農業経営としては,蓮根を中心とする野菜栽培,花卉栽培,養豚経営など,狭い地区の中に多様な商業的農業の経営類型が成立しており,メガロポリス地帯における農業的特質が本地区にまで拡大していることを示している.しかし,経営耕地面積が2ha前後とかなり広く,また徐々にその面積を拡大しつつある農家が多いこと,経営中心となる集約的生産部門に専門化する傾向がみられること,農業労働力は家族内でほぼ完結していること,農作業リズムの異なるいくつかの経営部門を組み合わせることで,これらの家族労働力を1年中完全燃焼させる工夫がなされていることなど,調査地区の地域的特性を反映した共通の性格がみられた.