地理学評論
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淡路島諭鶴羽山地南麓における取水・水利形態と水利空間の変化
生活用水を中心として
笠原 俊則
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1983 年 56 巻 6 号 p. 383-402

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抄録

本稿は,水利条件の劣悪な淡路島諭鶴羽山地南麓における取水・水利形態および水利空間の変化過程の究明を目的とするものである.この地域には,次の5タイプの取水形態が見受けられる.それらは, A: 共同で谷川から引水し,集落専用の簡易水道を持つ, B: 個人で谷川から引水する, C: 湧水(カワ・ホリ)や井戸などから引水する, D: 町営の簡易水道を使用する, E: 溜池から引水する,である.これらのタイプのうち,共同で谷川から取水するAタイプが, 17集落のうち14集落に及んでいる.共同取水を行なう集落では6集落に複数の水利集団が見い出される.そのうち, 3集落(吉野,黒岩,白崎)では社会的要因により,他の3集落(油谷,山本,惣川)では地形的要因によって,それが形成されてきた.この場合,社会的要因とは,小地域集団の隣保が,同時に水利集団をつくることである.ただし,吉野・黒岩では,隣保の分布自体が地形的制約を受け,社会的要因によるといえども,地形的要因を無視することはできない.しかし,白崎では,何世代にもわたって対立関係にあった二つの隣保が別個に水利集団を形成しているので,ここのみは社会的要因を重視しなければならない.これらの水利集団には,農業水利集団ほど明確な水利慣行・配水統制・水利労働などの規定は見られない.ただ,簡易水道の管理に関しては, 10日~1ヵ月交代,あるいは1~2年交代で担当者が設けられている.以上に対し,他の集落においては,地形的制約を克服し,水源を谷川・井戸・湧水・溜池に求めて,個別に最も容易な取水が行なわれていることが明らかになった.
また,この地域において,最も水利構造の変化の大きかった吉野では,生活用水の空間構造の変化過程は5期に分けられるが,その契機は,産業構造の変化に負うところが大きい.水利空間は,点から面へと拡大され,面の拡大にともなって,水利集団の再編成および単純化が行なわれた.そして,社会機能は隣保レベルから村レベルへと移行していった.

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