地理学評論 Ser. A
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アイヌの移動と居住集団—江戸末期の東蝦夷地を例に—
遠藤 匡俊
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1985 年 58 巻 12 号 p. 771-788

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抄録

本稿は,江戸末期の東蝦夷地におけるアイヌの移動形態と居住集団の流動性を,「松浦武四郎文書」や「人別帳」等の分析によって明らかにしようとする基礎的な研究である.漁撈・狩猟・採集生活をしていた江戸時代のアイヌの移動形態は,一定の本拠地からの季節的移動と理解されてきた.これは,1年以内というごく短期間でみれば妥当であることがわかった.安政5(1858)年の史料では,季節的移動の中心は青壮年男子であり,本拠地に残存者があったという事実が確認されるからである.しかし,「人別帳」に記された集落単位の居住者名を異年次間で照合するという方法を用いて,1年以上の期間でみると,本拠地は必ずしも一定していなかったことが明らかになった.また,本拠地が一定しているということは,居住集団の構成員が一定していることを意味する.しかし,集落の位置が変化するか否かに関わらず,本拠地移動の結果として,居住集団の構成員は変化していた.特に,安政3(1856)年から明治2(1869)年にかけてのミツイシアイヌでは,持続的な家集団が形成されずに,居住集団の構成員は流動的であった.

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