地理学評論 Ser. A
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東頸城山村・松代町における出稼労働の展開と建設労働市場
松田 松男
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1986 年 59 巻 5 号 p. 243-260

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抄録

本研究の目的は,従来から等閑視されてきた建設労働市場の構造を明らかにすることである.研究を行なうにあたっては,とくに次の4つの視点から検討した. (1) 地域内労働市場が狭隆であることの考察を行なう. (2) 山村労働力の恒常的流出過程については出稼組合の成立経緯を通して,出稼ぎが必然化していることを明らかにする.そのために, (3) 出稼者は技能をもたねばならず,その取得方法については,コンクリかたわく一ト打ちこみのために造った箱形の板を製作する型枠大工の労務を例として明らかにし,さらに, (4) 建設労働市場の特殊性である「労務下請」の構造を明らかにする.
まつだい松代町の労働力は,夏季の建設日雇や付近の農村に立地している工場へ通勤する地域内労働市場と,冬季に建設・染色・酒造などに行く,地域外の出稼労働市場からなっている.また,夏季の建設日雇と,冬季の建設出稼とは連動して営まれている場合が多い.労働に対する賃金の取得形態は,農村立地工場の通勤者が主婦を主体とした時給制と日給月給制であるのに対して,建設出稼者は男子を主体とした日給制になっていちとせる.出稼ぎは縁故関係に頼って出ることが多いが,その主たる理由は千年集落にみられるように,中層農家の家計と農業経営を維持するためである.出稼組合は1963年に創設されたが,その目的は出稼者の援護にあり,ある程度の技能に習熟した型枠大工や,不熟練労働力に対する需要が高まるなかでの行政指導から生まれたものである.
これを契機に,労務者の募集は組織的に「個別的」募集から「集団的」募集という方式に変わった.上越南公共職業安定所安塚出張所管内での建設出稼にみられる「労務下請」制の労働力配置は,次の3形態である. (1) 総合建設業者の単純下請就労者, (2) 一人親方的元請就労者, (3) 総合建設業者就労者.建設労働市場における重層性の1原因は,「労務下請」制の仕組みを通じて形成され,労務者が組み込まれていく.

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