地理学評論 Ser. A
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昭和恐慌下の秩夫織物業—工業組合の成立と産地再編成—
田村 均
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1987 年 60 巻 4 号 p. 213-237

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抄録

1931 (昭和6) 年12月,昭和恐慌下の秩父織物業界で,内地向けの絹織物産地としては全国に先がけて工業組合が成立した.本稿は,昭和恐慌期に危機的状況に陥った秩父織物業をとりあげ,この業界が同業組合から工業組合への「劇的」な業界刷新を通じて深刻な恐慌を切り抜け産地の再生をはかっていく過程に着目しながら,工業組合の成立を可能にした社会経済的・地域的条件を明らかにし,その歴史的評価を試みた.
昭和恐慌下に急きょ成立した工業組合は,生産者である機業家勢力による産地運営と念願の業界刷新を実現させたが,歴史的には国策的な中小織物業の組織化と統制を意味し,地域的には国・県当局の秩父織物業界に対する産地統制を準備するものとなった.この業界では大正期に問題化した同業組合内紛に象徴されるように,早くから生産者の組織化と自治的統制の気運や諸条件が地域的に醸成されてはいたが,工業組合それ自体の成立をめぐっては,商工省や埼玉県当局の強力な政策的誘導と統制がきわめて重要な役割を果たした.そこには中小織物業が地域的に,すなわち産地形態をとって社会経済的に自立発展するにあたって,いわば持殊日本的な特質と限界が見出される.

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