1990 年 63 巻 4 号 p. 237-254
本稿の目的は,地域を単位として住民運動を考察し,住民運動の把握を通じて環境問題を考えることである.そこで昭和40年以降の霞ヶ浦をめぐる住民運動,とくに富栄養化問題に対して環境保全を求めた住民運動について,運動の担い手である2団体の調査をもとに考察する.
湖の富栄養化は全流域住民に関係することながら,住民運動としての反応がみられたのは,常磐線沿線の都市化地域においてであった。都市化地域の住民が運動を起こした背景には,飲料水としての霞ヶ浦の水に対する不安,都市化に伴う環境悪化,「水郷土浦」の喪失などがあった.都市化地域の運動であったため,富栄養化問題について飲料水の安全性や生活排水・工場排水の処理が重視されることになった.しかし,農村地域でより重要な畜産排水や水産養殖の対策は当事者のみの問題,あるいは技術的な問題とされ,地域の問題としては扱われていない.