地理学評論 Ser. A
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十勝平野東部の段丘を開析する小流域の最終氷期以降の斜面発達
吉永 秀一郎
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1990 年 63 巻 9 号 p. 559-576

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抄録

最終氷期以降の斜面の地形変化傾向を検討する1つの試みとして,十勝平野東部,大豊台地のKs I面上に谷頭を有する小流域の谷壁斜面を取り上げ,その発達過程を明らかにした.
調査流域の谷壁斜面は,傾斜変換線を境とするいくつかの斜面単位に分類できる.これらの各斜面単位では,それぞれの斜面単位を覆うテフラを母材とする土層の層序が一定である.また土層層序の変化するところは傾斜変換線の位置に一致する.このことから段丘面の編年と同様に斜面の編年に際しても,テフラ層序およびテフラを母材とした土層の層序を用いることが有効である.
このような手法を用いて明らかになった調査流域の最終氷期以降の斜面の発達過程は,後氷期初頭(約9,000年前)を境として様式が異なる.後氷期初頭以前は,谷頭の上流への伸長および水流の下刻に伴う斜面の不安定化に起因して地形変化が進んでいる.これに対して後氷期初頭以降は,谷床高度の安定により水流の側刻が始まり,これに影響されて崩壊が発生することによって斜面形成が進行した.このような水流の縦断形の変化の傾向および斜面発達様式の違いは本流河川の河床高度変化の影響を受けたものではなく,調査流域内で独自に生起した現象であり,それは最終氷期以降の気候変化に伴う降水量の変化に影響されていると考えられる.

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