1993 年 66 巻 2 号 p. 59-80
本研究は,明治期以降の長野県小諸町を事例に,宿泊者の変化に着目し,府県域レベルの中位中心地における中心機能の変化の一側面とその要因を解明することを目的とした.宿泊者の変化を,小諸における代表的な旅館の宿帳を用いて復原し,宿泊者やその属性の変化から,小諸の対外交渉関係の変化と中心機能の変質を推定した.
小諸における中心機能の変化は,広域的な交渉関係をもつ中心地から地域的中心地へという変化であると考えることができる.そして,そうした変化をもたらした主要な要因は,交通システムの再編成と,それに伴う東京を中心とした全国流通の再編成であった.すなわち,鉄道開通前の中位中心地は,外部のさまざまな地域と直接交渉する機会をもっていた.しかし,鉄道の開通は,流通システムを再編成し,大都市と各府県庁所在都市に中心機能を集中させた.そのような変化の中で,小諸のような中位中心地は,相対的に中心性が低下し,郡域あるいは盆地レベルの地域中心地へと変質した.