本稿では,西南日本外帯山地の東縁に位置する埼玉県秩父山地の皆野町門平,大滝村寺井を事例に,斜面中腹集落の住民が認識する自然条件と土地利用との関係を検討した.両集落の住民は,基本的には階層的な土壌分類を基礎として土地を区分していた.ただし,自然条件の多様な門平では,日照や傾斜も考慮され,土地は多次元的に区分されていた.住民は,各土地の性質を詳細に認識し,これと関連づけて適作物を認識していた.実際に門平のジャリマにコンニャク,両集落のネバツチに茶,ノッペツチに野菜というように,適作物がその適地において特化し,各土地の性質を十分に生かした積極的な土地利用が急傾斜耕地においてなされていた.表土が十分な点で,また,平坦地に分布する傾向があることから,ノッペツチ-火山灰土壌-が実際に最もよく利用されていた.しかしながら,ジャリマやネバツチ-中・古生層由来土壌-は,耕作の阻害因子が多いものの,肥沃度の高い点で住民によって高く評価されていた.中・古生層山地に固有の自然的要素が住民によって高く評価されている点は,西南日本外帯山地の斜面中腹集落の特質を考える端緒となろう.