地理学評論 Ser. A
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小川琢治の人文地理学研究
岡田 俊裕
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1996 年 69 巻 1 号 p. 20-38

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抄録

地質学専攻の小川琢治 (1870-1941) が地理学研究に着手したのは,『台湾諸島誌』 (1896) を執筆し,『地学雑誌』を編集した (1897~1907年)ことに要因があった. 1908年京都帝大地理学講座の主宰者となった小川は,孤立荘宅と条里集落に関する研究を例示して居住地理学研究を唱導した.当初彼は,農業経営や農村生活へも考察を及ぼす姿勢を示したが,以後,もっぱら村落居住の起源・成立と変遷の研究を重視するにいたった.また小川は,刀剣の銘文を判読して刀工の地理的分布を明らかにした.それは当時の有力な集落の分布を示し,古代・中世日本の地域像の描出に役立った.小川が翻訳または考案した地理学用語は,あまり普及したとはいえない.しかし,彼の創見に富んだ研究業績は,高い研究レベルにおいて強い指導性をもった.ことに居住地理学の分野にはそれが明瞭に認められ,歴史地理的考察を軸とする研究方法は今日の人文地理学にも直結している.

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