地理学評論 Ser. A
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阪神淡路大震災における人的被害と避難の地域構造
激甚被害地区についての考察
石井 素介山崎 憲治生井 貞行内田 博幸岡沢 修一
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1996 年 69 巻 7 号 p. 559-578

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抄録

この報告は,阪神・淡路大震災の被害の地域構造を,犠牲者多発地区の特性ならびに避難所の実態から探るものである.震災犠牲者は社会的弱者である老人・女性に集中した.激甚な被害は神戸市都心周辺部の老朽密集住宅地・住工混在地域で顕著であった.これは,現代の大都市に内在する構造的弱点と社会的弱者に震災の重圧がかかり,その衝撃を契機としてこれらの矛盾が一挙に露呈されたものとみることができる.
地震の発生に際して,被害の程度を軽減させるうえで地域コミュニティの果たした役割は大きい.初期消火,住民の安否確認,生き埋め者の救出を短時間のうちに行なうには,地域社会がどのように形成・維持・展開されてきたかが大きなかかわりをもつ.とくに都市部では地元の濃密な人間関係の解体が進んでおり,それがインナーシティ問題に直結して被害の拡大に影響している.
地震直後,被災者はまず安全・近接・公共の空間を求あ,大多数が近隣の学校に避難した.元来学校は防災計画上の避難所として指定されていたが,受け入れ態勢は万全ではなかった.しかし多数の被災住民が殺到するなかで,学校は地域社会の中核に位置する公共空問として事実上重大な役割を果たした.学校避難所の運営は被災住民と行政の間に立って多くの困難に直面した.自身被災者でもある教職員が仲介役として多面的な役割を果たした場合も多い.学校避難所の推移には地域の被災程度や自治組織確立度如何によって多様な類型がみられた.しかし,緊急事態への対応として経験した避難者救援活動のなかで生まれてきた教職員・ボランティア・地域住民間の連帯の萌芽は,今後の震災からの復興過程においても,地域コミュニティ再建への道標として,重要な示唆となるであろう.この震災体験は,地域を場として将来の地域の担い手を育てる地理教育にとっても,課題として活かすべき多様な示唆を含むものといえよう.

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