人文地理学が政策科学として新しい領域を構築する可能性とその方法について考察した.人文地理学の研究成果の多くが地域の形成過程における政策の果たす役割に触れてはいるものの,日本の地理学界では地域政策論を地理学の主要領域の一つであるとは認めていないのが現状である.人文地理学の社会的地位の低迷の原因の一つは,人文地理学が地域を対象とする科学を標榜しながらも,国土計画や地域計画が策定されるに際して有効な理論や技術を提示し得ていないことである.政策立案への関与の事例として三重県津市の総合計画の策定過程における都市総合モデルによる予測を取り上げ,人文地理学における政策科学的アプローチの有益性を示した。人文地理学が地域事象の単なる解説的記述の域から脱して社会科学の応用分野として認知されるためには,地理学理論の一層の精緻化を進めるとともに,計量技術の開発を図るなどが必要である.