地理学評論 Ser. A
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東京・武蔵野・江戸
写真による地理的表象と自我探求
成瀬 厚
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キーワード: 写真, 故郷, 東京, 自然, 歴史
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2001 年 74 巻 8 号 p. 470-486

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抄録

特定の場所を表象する方法と動機を探求するために,写真家田沼武能の東京に関する作品を意味論的側面と制度的側面から分析した.作者の自己同一性と表象される場所との関係に故郷概念から接近した.意味論的分析から引き出された,田沼作品に通底するnature概念は,この関係を修辞的に結び付けている.戦後の東京下町で青年期を経験した田沼は,その変貌に戸惑いを感じ,処女作『武蔵野』 (1974年)で人間の外なる自然景観と過去の人々が残した建築物や遺物などの文化景観を記録した.この作品は土地そのものの不変の特質を強調したが,『東京の中の江戸』 (1982年)では,人々の表情や生活様式を画像化することを通じて,土地に根付いた人間の生活の不変性,すなわちある種の人間の本性を主張した.『東京の戦後』 (1993年)は撮り続けた写真を1990年代の彼の解釈によって編成したもので,一つの教科書的な歴史物語を呈している.こうした作品生産を通して,作者のアイデンティティは彼自身の自発的な力と出版界などの制度による諸力の中で相互作用的に形成された.

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