Geographical review of Japan, Series B
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日本工業の立地変動と地域構造~低成長移行に伴う構造転換とその国際比較
松橋 公治富樫 幸一
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1988 年 61 巻 1 号 p. 174-189

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抄録

現代における産業立地・地域構造を考えるにあたっては産業変動・企業行動に関する分析が不可欠である。近年における欧米の工業地理学の活性化も,深刻な経済停滞とそれによる空間構造変動という実態面からの要請もさることながら,そうした視角・方法をめぐる活発な議論によるところが大きい。他方,わが国の工業地理学・産業立地研究のなかには,欧米の研究のそれと類似した観点をもち,かつ成果においてもかなり深められたものがあるとはいえ,国内レベルの議論に限定され,必ずしも欧米の議論と共通な土台の上での展望やその意義が検討されることが十分ではなかった。
本稿では,このような問題意識にもとづき,国際的視野から,低成長移行に伴う産業構造転換期における主導産業の立地変動と地域構造に関する研究の成果と課題を方法論的ないし実証的に再検討する。方法論に関しては,わが国の工業地理学の1潮流である「地域構造論」における立地変動・地域構造をめぐる視角・方法を検討し,欧米の諸潮流と対比した。その結果,地域構造論と「構造アプローチ」との対比に有効性が認められ,視角・方法や経験的研究におけるその共通性と相違性とを明らかにした。
他方,具体的な産業動向の研究では,基軸産業である素材と機械の両部門を取り上げ,その立地変動に関する成果と課題を整理した。前者では,イギリスとの対比において,企業の立地戦略が立地変動を主導する点で共通性をもちながらも,経済環境・政策・産業組織などの相違が,異なる立地変動と地域分業を結果していること,それが近年の産業調整や企業の縮小・撤退戦略に異なる対応をもたらしていること,などが明らかにされた。また,量産・組立型の機械部門では,高度成長期の量産移行の段階におけるわが国の独特の集中傾向と欧米の分散傾向とが対照をなす点に最大の特徴がみられた。それは,労働過程の視点からすると,量産を遂行する両者の生産システムと立地適応の相違,つまり日本における階層的労働力編成,独特の労資関係,過当競争体質を背景とした,下請システムをも包摂した柔軟な生産システムとそれを前提にした企業の立地行動の結果であった。その違いを理解するカギは,労働過程の統制の仕方にみられる相違である。

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