Geographical review of Japan, Series B
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北イタリア・南チロルとトレンチーノにおける疾病の地域差
加賀美 雅弘
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1992 年 65 巻 1 号 p. 1-14

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抄録

住民の健康状態(疾病)の地域差に着目することによって地域性を把握することが本稿の目的である。健康状態を表現するデータを入手することは一般に難しく,多くは歴史的な資料に限られる。ここでは,北イタリアのアルトアディジェ州(南チロルとトレンチーノ)がかつてオーストリア帝国領であった1910年に実施された徴兵検査の結果個票を分析資料とした。この資料には,徴兵検査の合・不合格の判定はもとより,不合格理由としての疾病,住所,身長,母国語など個人の属性が載せられている。
この隣接する二つの地域は,中世以来,南チロルにドイツ系がそしてトレンチーノにイタリア系の住民がそれそれ居住してきたために,両地域の性格には明瞭な差異が観察される。この違いは住民の健康状態にも反映されている。たとえば徴兵検査の結果である合否の割合を見ると,南チロルに比べてトレンチーノでは不合格者の割合が高い傾向にある。また,疾病の種類にも地域的な違いが認められる。とりわけ注目されるのが,トレンチーノの農村,山地地域に目立って発生する皮膚病と甲状腺疾患である。この二つの疾病は, 1910年当時,トレンチーノに蔓延していたペラグラと甲状腺腫を意味するものと言える。そこで,この二つの疾病に関与する地域の諸要素を総合的に捉えることによって,疾病に着目したトレンチーノの地域性を描写することができた。

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