2002 年 75 巻 14 号 p. 887-900
本研究は,視覚障害者の日常生活におげるモビリティの規定要因を,対象者の移動環境に対する満足度や,障害の度合いといった個人属性の関係から明らかにすることを目的としている.まず,視覚障害者の移動環境にどのような種類があるかを因子分析から明らかにし,重回帰分析によって単独移動率として定義されたモビリティと移動環境の満足度を評価する.そして,因子得点に基づくクラスター分析から典型的な移動環境評価の特性を分類し,対象者のモビリティと個人属性の関係を追究した.その結果,対象者の移動環境に対する満足度の高さがモビリティを規定するとはいえないことが示された.これは,障害の度合いや移動に対する抵抗感,そして対象者の背景の個人差によって生じるものである.それゆえ,対象者の日常的な移動行動上の制約を明らかにするためには,物理的環境の制約のみならず,個人がおかれた社会的背景と意識的側面に注意を払いながら考えていくことが重要な課題となる.