本稿では,日光国立公園の戦場ヶ原を対象に,扇状地との境界付近における湿原の縮小と,それに関連して生じる地表面プロセスを論じた.調査地域には,扇状地側に年代の古いカラマッ林が,湿原側に年代の新しいシラカンバ林が成立している.この植生分布の境界は,扇状地堆積物の分布限界,すなわち地形的な境界と一致する.地形の形成に伴って侵入した樹木は,蒸発散量・地下水位・風速・積雪深などの微気候を変化させたと推察される.カラマッ林と,その後に成立したシラカンバ林の景観の違いは,遷移のステージの違いを示すものではなく,局地的な環境条件の差異によって規定されており,その環境条件を決定する基本的な要因は地形形成作用および地表面の形態であると考えられる.