宝石学会(日本)講演会要旨
平成19年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
セッションID: S1
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特別講演-ダイヤモンド合成の夜明け頃-
*若槻 雅男
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抄録
ダイヤモンドと石墨(またの名を黒鉛)は共に100パーセントの炭素(正確に言えば単体としての炭素)で出来た固体である。これまでに解っているダイヤモンド合成法には、超高圧・高温下に溶媒(金属)を介在させて石墨をダイヤモンドに変換する溶媒法、爆薬を使った衝撃加圧法、メタンなどの炭素を遊離してダイヤモンドとして沈積させる気相法がある。原理的に理解しやすく、技術的にも容易なものは溶媒法である。
人類最初のダイヤモンド合成は1955年米国GE社が実現し、それは溶媒法であった。GEは合成の原理や方法を数年間伏せた後1959年に溶媒の正体を、続く1960年に超高圧高温装置(ベルト型)を、論文として公表した。それ以後わが国を含む多くの国で研究開発が始められたようである。GEの公表は、講演者が東芝に就職した翌年に当る。また「中央研究所ブーム」といわれた当時の企業の旺盛な研究開発意欲のほか、上司の興味や関連会社の事業展開方針、瓢箪から駒のような偶然にも押されて、ダイヤモンド合成の黎明期からその開発に立ち会う幸運(?)を得た。
東芝におけるダイヤモンド合成も溶媒法であり、その成功は1962年に発表し、本邦初演、少なくも発表はわが国で最初のものであった。しかし当時東芝以上に本気で注力していた企業も勿論あった。ともあれ当時は超高圧高温装置にせよ溶媒の性質やダイヤモンド生成機構にせよ、全てが新しい概念と技術であった。米国で発達した近代的な超高圧あるいは超高圧高温技術を取り入れた研究室が東大物性研究所に発足したのも1962年である。例えばベルト装置の形状は論文に描かれた図面からデッドコピーするにしても設計パラメターがどうなのかわからないし、プレス(油圧機)への取り付けや精度調整の方法と実現させるべき精度の許容限界はわからない。発生圧力を検定する圧力校正の原理は1950年頃からBridgmanの論文から判ってはいたが、それに使う検圧素子(ビスマス、タリウム、バリウムの細線)はどうやって作ればよいのか。素子から取り出す電気信号のどのような状態が検定圧への到達に対応しているのか。装置に内蔵するヒーターに加熱電流を供給する時、発生温度がふらついたり振動したりしないようにする方法は何か。原理的には解っていてもノウハウは無く、指導もアドバイスもどこへ行っても受けられず、一つ一つ手探りで積み上げて行く状態であった。
ベルト型超高圧装置と、溶媒になると判った元素はすべてGEが特許として押さえていた。GEが合成法の正体(溶媒)やベルト装置を4年間も伏せた理由は特許の網を完全にするためという穿った見方もあるほどである。今でこそこれらの基本特許は切れ、新たな開発がし易くなったのかも知れないが、当時はGEの特許を回避した技術や方法、新しい溶媒の探索などが課せられた。 浅学で不器用な技術者たちが経験した研究開発には裏話として表には出ない話題も多い。当学会の要請により、そういう話題をまじえながら黎明期におけるダイヤモンド合成研究開発の事情を解説する。
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© 2007 宝石学会(日本)
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