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結晶中に見られる砂糖きび絞り機の歯車(trapicho)に似た模様はトラピッチェ・パターンと呼ばれ、エメラルド、コランダム(ルビー、サファイア)、ガーネット、トルマリン、スピネルで報告されている。また、同様の組織は水晶、紅柱石(空晶石)にも見られる。
トラピッチェ・パターンは概ね 2 つのタイプ、 (a)セクター境界に沿って、異種鉱物が樹枝状に配列しているもの、 (b)柱面から垂線方向に結晶自身が成長、または異種鉱物・欠陥が集中して柱状模様を示すもの、に大別できる。このうち、前者の組織については、高過飽和条件下での樹枝状成長とそれに続く低過飽和条件下での多面体成長の二段階を経ていると説明されているが、後者については十分な検討がされていない。
現在、我々は様々な鉱物に見られるトラピッチェ・パターンの形成過程を検討中であり、これまでに得られた結果について報告する。
以下の図はトラピッチェ・エメラルドのc-カットの組成像である。中央のコア領域の周囲には多数のインクルージョンが取り込まれており、それらがセクター境界の方向に配列している(図1)。また、柱面のセクター中にはインクルージョンに起源を発し、成長方向に伸長した細かい模様が存在している(図2、3)。
セクター境界は結晶外形で見られる稜の軌跡であるから、トラピッチェ・パターンは稜に析出した異種鉱物の継続的な取り込みとそれらに起因した界面の instability による一方向成長で説明できる。