宝石学会(日本)講演会要旨
2022年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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2022年度 宝石学会(日本) オンライン講演会発表要旨
クリソコーラと誤認されやすいタルクの分析
*趙 政皓江森 健太郎岡野 誠賀 雪菁鍵 裕之
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キーワード: Talc, Chrysocolla, XRD, FTIR, Raman Spectrum
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p. 14

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抄録

クリソコーラは青緑色や緑色を表す銅のケイ酸塩鉱物の一種であり、マラカイトやアズライトなどと同時に産出されることが多い。化学組成は一般的に Cu2H2Si2O5(OH)4·nH2O とされているが、ほとんどが非晶質であり、原子座標まで明白な結晶構造はわかっていない。

最近、我々のラボに見た目にクリソコーラを含むと思われるビーズの石が鑑別依頼で持ち込まれた。石は淡青色、濃青色と緑色の箇所で構成され、 FTIR と Raman 分光でアズライトとマラカイトが含まれることが明らかになった。しかし、クリソコーラと思われた淡青色の箇所からクリソコーラには存在しないはずの高濃度の Mg が検出された。従って、淡青色の箇所は実際クリソコーラであるか疑問が持たれた。そこで、本研究では前述した淡青色の箇所の正確な鉱物種を明らかにすることを目的にした。

本研究に用いたサンプルは、前述したビーズの 2 点と、クリソコーラ原石 5 点である。サンプルの測定には FTIR として日本分光社製(FT/IR4100)、 Raman 分光分析として Renishaw InVia Raman System、蛍光 X 線元素分析装置として日本電子社製JSX1000Sを用いた。その後、サンプルをメノウ乳鉢で粉砕し、 RIGAKU 社製 MiniFlex600 を用いて粉末 X 回折分析、Bruker 社製 INVENIO R を用いて FTIR 透過スペクトル測定を行った。

5つのクリソコーラ原石について、 FTIR スペクトル、 Raman スペクトル、 X 線回折パターン共に文献と一致し、クリソコーラであることが確認できた。一方、2つのビーズの石の淡青色の箇所について FTIR スペクトル、 Ramanスペクトル、 X 線回折パターンすべてクリソコーラ文献と一致しせず、ケイ酸マグネシウム鉱物であるタルクと一致することが明らかになった。

本研究で測定したビーズの石は、アズライトとマラカイトと同時に産出されるためクリソコーラと誤認されやすいが、 FTIR、 Raman とX 線回折の結果から、その主成分はタルクであることが判明した。ただし、天然タルクに Cu2+が入ることは今まで報告されていないため、この石は銅含有タルクなのか、タルクと微量の銅鉱物の混合物なのか、さらなる調査が必要である。宝石業界としても、このように誤認されやすい石に対して注意を払う必要がある。

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