2016 年 56 巻 5 号 p. 385-389
背景.肺癌では時に病巣の空洞化がみられるが,薄壁空洞を呈する症例は少ない.症例.55歳男性.X-3年6月に右上葉S2bの肺化膿症に罹患したが,この時既に右上葉S2aに14 mm大の嚢胞様病変が存在していた.その後,近医で経過観察中に右S2の病変が増大したため,X年11月当院へ再紹介された.胸部CTで右S2からS6にまたがる77 mm大の薄壁空洞病変を認め,尾側では空洞壁が肥厚していた.また両側肺野に大小様々の転移巣を認め,いずれも薄壁空洞を呈していた.肺扁平上皮癌と組織診断し,cisplatinとdocetaxelによる癌化学療法3サイクルを行った.原発巣と転移巣は,いずれもさらに薄壁化し嚢胞様を呈した.薄壁空洞を形成する機序として様々な仮説が報告されているが,本症例ではチェックバルブ機構の関与を疑った.結論.薄壁空洞性病変においても,肺癌の可能性も想定して注意深い経過観察が必要と考えられた.