2019 年 59 巻 3 号 p. 248-253
背景.非感染性心内膜炎はTrousseau症候群の一つとして知られているが,脳梗塞を発症して初めて診断されることが多く診断が難しい.またその治療法はいまだ確立されておらず,予後は極めて悪い.症例.68歳男性,腰痛を主訴に当院を受診,腰椎に骨転移を疑う病変を認めた.原発巣精査の結果,原発性肺腺癌(cT1bN2M1b,cStage IVB,EGFR遺伝子変異陽性)と診断し,アファチニブを開始した.アファチニブ開始後に発熱があり,経胸壁心エコーを施行したところ大動脈弁に疣贅を認めた.抗菌薬,抗凝固薬を使用せず様子をみていたところ,発熱から10日目に疣贅の消失を認めた.複数回施行した血液培養は陰性であった.以上から,肺癌に合併した非感染性心内膜炎と診断した.EGFRチロシンキナーゼ阻害剤治療により肺癌も著明に縮小し,血栓症の再発もなく経過している.結論.脳梗塞発症前に非感染性心内膜炎を診断し,抗凝固薬を用いずとも分子標的療法のみで軽快した稀な1例を経験した.悪性腫瘍に伴う血液培養陰性の心内膜炎では本症を鑑別に挙げ,できるだけ早期に化学療法を開始することが重要である.