2020 年 60 巻 4 号 p. 364-370
背景.がんゲノム医療の普及により,遺伝子情報から治療戦略を考える機会が増えた.しかし,診断での有用性に関する報告は少ない.症例.51歳男性.右上顎洞癌に対して右上顎洞全摘・再建術および術後化学放射線療法を施行.術後8か月の胸部CTで左胸膜腫瘍が出現し,生検検体は病理学的に悪性胸膜中皮腫が疑われ,当院を紹介受診.再検した免疫染色は低分化な肉腫様の組織でcalretininやD2-40は陰性で,悪性中皮腫と診断できず,病理学的な類似性には乏しいが既往の右上顎洞癌転移の可能性も考慮し,右上顎洞癌および胸膜腫瘍組織をFoundationOneⓇCDxならびにFoundationOneⓇHEMEによるがん遺伝子パネル検査でそれぞれ解析した.両方の組織から頭頚部癌の高頻度遺伝子異常であるNOTCH1を含め共通する遺伝子異常を多数検出し,右上顎洞癌の転移と診断した.いずれの組織もTumor mutation burdenが高く,Nivolumabで著明な腫瘍縮小を得た.結論.病理学的な確定診断が困難であったが,ゲノム検査を追加して確定診断および治療の適正化が得られた1例を経験した.