日本ハンセン病学会雑誌
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らい腫に由来する培養可能抗酸菌M. HI-75接種による末梢神経病変の実験的作製
スディック ハミット
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1996 年 65 巻 3 号 p. 174-179

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抄録

抗酸菌感染による末梢神経病変はハンセン病に特有とされる。しかしながらこの知見が絶対的なものであるならばらい菌以外の菌と同定された抗酸菌接種による同様病変は存在し得ない筈である。しかもらい菌は培養不可能の菌とされているので培養された抗酸菌による上記病変の惹起は唯一らい菌のみが神経病変を起こす抗酸菌とする,あるいはらい菌が培養不可能とする定説のいずれかに修正をせまるものである。よって佐々木等によりヌードマウス接種による末梢神経内増殖が報告されている培養可能抗酸菌M. HI-75 (HI-75)を用い,より早く,より確実に同様病変を作製する手段の検討を今回試みたわけである。
実験はBALB/cA euthymic(+/+)雌にHI-75を静脈注射した群とこの菌をヒアルロン酸と混じて上口唇部に皮下注射した群の2群のマウス組織について経時的に組織学的検討を加える事により行った。以上の結果前者では末梢神経の大部分には目立った病変は生ぜず,少数の神経内鞘にシュワン細胞には貧食されていない1,2個の抗酸菌を認めるのみであったが後者では抗酸菌HI-75を直接注射して3ヶ月目の上口唇部に既に末梢神経を巻き込むマクロファージの増生とその胞体内並びに神経周膜からその内鞘に侵入し,シュワン細胞内で増生する抗酸菌の存在並びにそれ以後におけるこの所見の増強を認めた。
以上によりSkinsnes等によりらい腫から分離され,らい菌として報告され,Stanford等によりM. scrofulaceum (MS)とされた培養可能抗酸菌HI-75による末梢神経病変の短期実験的作製には成功したと言えよう。またこれにより本菌のマウス体内増殖前後における生物学的性状変化の有無らい菌,本菌並びにMSとの生物学的相互関係、並びにらい菌以外に末梢神経病変惹起能力を有する抗酸菌の有無等の疑問に対す検討手段の手がかりを得たと考えられる。

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