無文字社会において伝承されてきた身体技術(衣類を製作する技術)は急速な社会の変化に伴って消失の危機を孕んでいる.現地ではこれを保存するべく職業訓練学校では技術伝承の実技指導法やカリキュラムを模索している.このニーズに応えるために,衣類製作に使用される道具,諸技術要素とその指導システムを解明しつつある.今回は伝統的衣類製作技術を34種類に精選し,被験者(106名)のこれら技術の習得の有無を手がかりにして,項目反応理論による項目ごとの困難度パラメタβ と識別力パラメタαと,平均習得年齢を求め,これらの情報から伝統技術要素の指導の最適時期を探索した.タイ王国チェンマイ県のカレン人女性で衣類製作の経験を持つ106 名を対象として,上記α とβ,項目ごとの平均習得年齢xとその標準偏差σ を求めた.次いでxに対するα,β およびσ を2 次元座標上に布置し,無差別曲線(indifference curve)を仮定してその分布を検討したところ,明確に最適化問題を解く手がかりを得ることが出来た.つまり,年齢に適した技術項目の指導順序に関する有力な情報をつかんだ.なおこの研究方法は同種の技術要素指導や伝承に関する最適化問題に応用可能と考える.