高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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原著
高次脳機能障害を伴う失語症例のインスリン自己注射の獲得過程
小薗 真知子
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2006 年 26 巻 2 号 p. 180-188

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抄録

糖尿病を持つ高次脳機能障害者のインスリン自己注射の習得上の問題点について報告した。症例は発病時 74歳の右利き女性。10年以上放置していた糖尿病を基礎疾患として急性大動脈乖離を起こし,その緊急手術後に脳梗塞を発症した。右不全片麻痺,ウェルニッケ失語,失行,注意障害,記憶障害を認めたが,発症 3ヵ月目の時点から自宅復帰へ向けて糖尿病自己管理のための指導を実施した。注射導入の最大の問題点は,ウェルニッケ失語による言語理解の障害であり,患者の同意を得るために自己注射の意味を理解させる丁寧な説明が必要であった。また,記憶障害のために通常以上の反復練習が必要であったが,1ヵ月ほどで習得可能であった。見守りの結果,その後のリスクは通常の患者と大差ないことが分かった。高次脳機能障害を持つ患者がインスリン自己注射の自立に至るまでには,医師,看護師,言語聴覚士がそれぞれの立場で評価し指導法を検討することが不可欠であった。

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© 2006 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
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