高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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カレントスピーチ
社会的行動障害への介入法─精神医学的観点からの整理─
三村 將
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2009 年 29 巻 1 号 p. 26-33

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抄録

  脳損傷,特に前頭葉損傷患者が示す社会的能力の障害には,自分の言動を相手がどう思うかを理解できない「心の理論」(心的推測)の問題と,衝動コントロールの問題とが複合的に関与している。本稿では,衝動コントロールの問題への介入技法について,精神科的観点から整理を試みた。衝動コントロールが悪いと,脱抑制行動や対人関係トラブルが目立ったり,一方で思うようにいかないと激しい怒りの爆発( anger burst )が生じたりする。脱抑制に対しては,種々の向精神薬が奏効することがあるが,薬物療法の効果はまだ十分なエビデンスが得られていない。心理的介入については,精神科領域で広く用いられている認知行動療法は,前頭葉損傷患者が示す anger burst に対してもしばしば有用なアプローチとなる。原則として,患者の機能や気づきのレベルが低いほど行動的アプローチが中心となり,反対に機能や気づきのレベルが高いほど認知的アプローチの導入が可能となる。これらの具体的アプローチについて概説した。衝動の背景には動機を形成する快(報酬)─不快(罰)体験がある。本稿では,前頭葉損傷例に試みた予備的な長期報酬学習訓練について紹介した。衝動コントロール不良な前頭葉損傷患者がいかにして即時的報酬を抑えて,将来的・長期的な報酬を学習・強化できるかが今後の重要な研究ターゲットであろう。

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© 2009 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
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