高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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イブニングセミナー
臨床失行症学
中川 賀嗣
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2010 年 30 巻 1 号 p. 10-18

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抄録

失行の (広義の) 定義では,非失行性要因による行為・動作障害を除外する必要性が示されている。そのため,まずどのような非失行性要因が,どのような形で行為・動作に影響するかを紹介した。さらに道具使用動作も含めて,対象操作に関連する行為・動作を 2 つの系に大別した。第 1 の系は,到達・把持動作を含み,どんな道具かによらず,非特異的に対象物を扱う動作の系である。また到達・把持後においても,「各道具に特異的な使用動作」以外の,非特異的な扱い動作もこの系に含めた。この系は使用手の対側半球が担っていると考えられる。第 2 の系は,道具を把持した後の,「各道具に特異的な使用動作」からなる系である。たとえばハサミの場合には,ハサミで「紙を切る動作」がこれにあたる。この系は左優位半球が両手に対して担うと考えられる。本稿では第 1 の系が選択的に障害され,第 2 の系は保たれていると見なし得た 1 例を示し,これを新たな失行型と位置づけ,暫定的に「到達・把持失行」と呼んだ。一方第 2 の系が選択的に障害され,第 1 の系が保たれた病態は,使用失行がこれにあたると見なしうる。

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© 2010 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
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