高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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シンポジウム III : 前頭側頭葉変性症と紛らわしい病態
意味性認知症と見誤り易い症候について
小森 憲治郎豊田 泰孝森 崇明谷向 知
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2016 年 36 巻 3 号 p. 350-360

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抄録

  意味記憶の選択的障害例である意味性認知症 (SD) の言語症状は, 語義失語である。SD に伴う語義失語では, 語の辞書的な意味の喪失を反映し, 語の想起と理解の障害像に特有の症状があり, また書字言語に関しては表層失読のパターンが認められる。これらの症状に共通する特徴は, 頻度や典型性から離れた対象に対する既知感の喪失である。SD 特有とされる語義失語であるが, 側頭葉前方部の萎縮を伴うアルツハイマー病 (AD) 例の亜型にも, SD と類似の言語症状や画像所見を認める場合があり, 注意が必要である。本研究で取り上げた2 例は, エピソード記憶障害に違いはあるものの, 年齢や教育年数など背景条件が類似し, 画像や神経心理学的検査プロフィールにおいても共通の特徴が認められた。しかし注意深い観察により, 次のような相違点を見出すことができた。まず, 呼称と理解成績の一貫性は, 症例2 では高いが, 症例1 では低かった。また理解できない対象への態度にも違いがあり, 症例2 では「わからない」反応が多いのに対し, 症例1 では命題的な場面で, 対象の個別の感覚的属性にとらわれ抽象的な判断能力が弱まる『抽象的態度の障害』を呈した。これは健忘失語の二方向性障害を示唆する所見である。これらの特徴から, 症例1 は側頭葉前方部の萎縮に伴い二方向性の健忘失語を呈したAD 例, 症例2 は高齢発症のSD 例と診断した。このようなSD と見誤り易い症候が出現する背景には, SD の神経病理として有力なTDP-43 の神経変性疾患における併存や, 比較的扁桃体周囲に限局する分布の特徴が関与している可能性を推測した。

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© 2016 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
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