テレビ, 人物, 場所に対する妄想性誤認と行動的自発性作話が出現した 1 例を報告した。本例は転院当初から地理的定位錯誤を呈し, 二重見当識を経て場所の重複記憶錯誤が出現した。それらと同時に行動的自発性作話や人物誤認を認めた。さらに本例はテレビの内容に誘発されて実際に行動化に至った。本例の作話は最も活性化されやすい自伝的記憶のスキーマが文脈と一致しない状況において活性化され, さらにスキーマの活性化がより強力な feeling of rightness を惹起し, モニタリングが機能不全となったために生じた可能性が考えられた。一方, 緩徐に認知機能が回復してくることで, スキーマを基盤とした外界に対する主観的な認識が変化した。結果, 場所の重複記憶錯誤が生じたと考えられた。また本例のテレビ徴候は環境依存症候群との関連が考えられた。妄想性誤認や行動的自発性作話の原因として, 広汎な前頭葉底面および内側面下部の機能低下が重要と考えられた。