2021 年 41 巻 4 号 p. 406-412
感情の変化などに伴って一過性・可逆性にジャルゴンの形式に変化を示した 2 症例を報告した。症例 1 は 80 歳代のアルツハイマー病の女性である。失語は重度であり, 精神的に情動不安定で易怒性が高かった。平穏時の発話は語新作を含むジャルゴンであったが, 興奮時には語新作が増加して助詞が脱落する傾向があり, 未分化ジャルゴンに近い発話に変化した。症例 2 は 80 歳代の女性で発症前より健忘症状があった。左視床出血が発症し, 全般的認知機能低下を伴う重度失語を呈した。発話は基本的に音韻の誤りを含まない意味性ジャルゴンであったが, 会話中, 話が興に乗って高揚した状態になると語新作が出現するようになり, やがて疲労感の表出とともに高揚状態がおさまると発話量が減少し, 語新作が消失する, という変化を示した。これらの 2 症例にみられた情動の変化に伴ったジャルゴンの形式変化について検討した。