2022 年 42 巻 2 号 p. 229-238
左上中側頭回後部領域の脳梗塞後に語義聾が疑われる症状を呈したが, 聴いて理解できない語を仮名で書き取って理解する症例を経験した。症例は 50 歳代の右利き女性。単語の聴覚的理解が低下していたが, 音声提示による語彙判断は良好であり, 語音弁別の障害もごく軽度であったことから, 主な問題は語義の理解であると考えられた。単語の復唱および文字提示による単語の理解は保たれていた。以上の特徴は語義聾の既報告例と一致した。文字言語に関しては漢字の書取のみ低下し, 仮名の書取や読解が良好に保存されていたことから, 聴覚的理解を補うストラテジーとして仮名を使用するようになったと考えられた。本症例が他の語義聾例と異なる点は, 単語のみならず非語や 1 音節も仮名で書き取ることが可能であったことだが, 質的検討より, 既報告例と同様に語彙経路ではなく非意味的語彙経路を主に利用したと推察された。