高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
Online ISSN : 1880-6554
Print ISSN : 1348-4818
ISSN-L : 1348-4818
原著
地誌的見当識障害の代償手段の検討─環境に対する自己の方向定位を記述したメモが有用であった 1 例─
甲斐 祥吾野村 心中島 恵子吉川 公正
著者情報
ジャーナル フリー

2022 年 42 巻 3 号 p. 382-389

詳細
抄録

  症例は 60 歳代後半, 女性であり, 右海馬傍回, 紡錘状回, 基底核, 上頭頂小葉および脳梁膨大後域皮質の脳梗塞後に明らかな地誌的見当識障害を示した。発症後 1 ヵ月で当センター回復期リハビリテーション病棟へ入院したが, 1 週間後も, 居室と食堂間, 居室と訓練室間などの地誌的情報は把握困難であった。本症例の地誌的見当識障害として, 従来の評価方法で道順障害, 街並失認の存在が明らかとなった。 橋本ら (2016) が報告した Card Placing Test (以下, CPT) の実施により, 自己中心的地誌的見当識障害の要因も抽出された。自己中心的空間表象障害の代償を探る目的として, 「AED が右後ろ」「カウンターが左後ろ」など環境と自己の方向定位を記述したメモを方略とした。約 5 週間の介入にて, 病院内や退院後に入所した障害者支援施設内で移動の自立に至った。地誌的見当識障害は, 病巣や従来の問診および行動観察などの質的評価に加えて, CPT のような数値で示される定量的評価を行うことが重要と考えられた。

著者関連情報
© 2022 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
前の記事 次の記事
feedback
Top