2024 年 2024 巻 34 号 p. 646-670
われわれは2011年の東日本大震災から原子力依存の後発的問題や廃炉にかかわる永続的な問題についてさらに深く学びつつある.また,地球の温暖化対策として二酸化炭素の削減は,国連地球サミットをはじめ既定路線として一定のコンセサスを得ている.二酸化炭素を削減するためには,再生可能エネルギーを中心に置いて,近年著しく進展しつつある節電や省エネの技術に基づく需要と供給の両面を考慮した体系的なエネルギー政策の構築が不可欠である.
再生可能エネルギーのなかでも太陽光や風力などの変動型自然エネルギー主体の電力供給システムにあっては,電力需給コントロールの脆弱性が取り上げられる.わが国においては電力の安定供給に不可欠なベースロード電源として原子力が位置付けられているが,原子力は出力調整が苦手な電源であり不適格である.本稿の目的は,長期的な視点から再生可能エネルギーの電力供給にフロー面で不可欠な出力調整に柔軟な対応力を持ち,またストック面からも地域分散型で貴重な電源となる畜産廃棄物主体のメタンガス発電を有力なベースロード電源と位置づけ,その生産能力と確実性をもとに量的拡大方策とその可能性を探ることにある.本研究の成果としては,国内の飼養搾牛頭数からメタンガス発電の潜在発電電力量が国内の水力発電量の1.8%(少なく見積もっても0.9%)を占めると推計できた.その潜在発電電力量を前提にメタンガス発電の量的拡大に向けて,本研究の事業実証モデルに基づいて範囲を全国域に広げた場合,畜産廃棄物に加えて食品加工残渣の数量確保が重要であり,発電量拡大をより確実にできるのが,酪農畜産廃棄物の発生源のクラスターと産業廃棄物収集運搬事業者との連携であることが見いだせた.