2010 年 Suppl 巻 p. 59-70
本コメンタールは、教育思想史学会が教育思想研究における過去への視座(歴史的視点)の必要性を自覚した現れであるはずである。1995年から97年にかけての『近代教育フォーラム』における論議を振り返ると、西洋教育史研究の退潮傾向にもかかわらず、<近代教育思想史像の相対化>という歴史的関心が論者に共有されていたのを看取できる。他方、論者の意図は、粗く区分すれば、歴史派対哲学派、批判派対再構築派で大きく隔たっていた。さらに、対象と方法論の拡散のなかで、議論が収斂に向かったとはいえない。方法論の多様性が許容された背景には唯名論的スタンスがある。しかし、この行き過ぎは歴史的関心を無用のものとしてしまう。その後の『近代教育フォーラム』の論調を見ると、教育思想研究における歴史的視点の必要性について、今一度、検討するべき時を迎えているように思われる。