人文地理学会大会 研究発表要旨
2004年 人文地理学会大会 研究発表要旨
セッションID: 315
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青果物流通の「個別化」と産地の対応
*池田 真志
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抄録

2000年以降,BSE騒動や食品の表示偽装問題など,食の安全をめぐる様々な問題が発生し,流通業界は対応に迫られてきた.大手スーパー各社はいわゆる「顔が見える」野菜と呼ばれる生産者名や生産履歴が分かる青果物を導入することで,安心や安全を訴えている.このような青果物の調達は,従来の市場流通では難しいため,スーパーは新たな調達システムを形成している.このような動向に対して産地は様々な対応に迫られている.本発表では,「顔が見える」流通に対する産地の対応を検討することによって,その意義を議論する. なお,本研究では,「顔が見える」流通を‘流通の「個別化」’という新しい概念で捉える.流通の「個別化」とは,従来は一緒くたに扱われていた商品をできるだけ個別に扱おうとする流通の変化を意味する.例えば,青果物流通においては,同じ野菜であっても,生産者別に商品を区別して流通させる動向である.農家は「顔が見える」野菜に取り組むにあたって,1.出荷する数量の対応,2.出荷する品目・品種の対応,3.作業面の対応などの様々な対応に迫られている.他方,農協や専門流通業者は,個別に流通させる仕組みの構築や需給調整などの対応をしている. 「顔が見える」流通に参加する各主体は以上のような対応に迫られているが,それでも取り組む意義は大きい.農家にとっては経営的・精神的なメリット,農協にとっては新しい生産・出荷体制の構築,専門流通業者にとっては青果物流通業界で生き残りを図るための重要な活動である. 流通が「個別化」から,生産-流通関係が変化が読み取れる.大量流通のシステムでは,生産者と消費者は切り離されており,生産から流通までの関係は価格と品質に基づいた一時的なものであったが,「個別化」した流通において,その関係は,信頼関係に基づいた,密接的で継続的な関係に変化した.

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© 2004 人文地理学会
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