人文地理学会大会 研究発表要旨
2008年 人文地理学会大会
セッションID: 307
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第3会場
世代交代期にある地方都市郊外住宅地の変容
*中澤 高志
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抄録

本発表では,1970年代初頭に開発された大分市の郊外住宅地を対象地域として,世代交代に伴う郊外住宅地の変容の一端を捉えようと試みる.東京圏においては,上述のような郊外をめぐる問題意識の変遷を受け,世代交代に伴う郊外住宅地の変容を扱った研究がすでに公表されている )が,非大都市圏に関しては,同様の観点からの研究はその緒についたばかりである.非大都市圏の場合には,進学や就職に伴って子世代が大都市圏に他出することが多いため,世代間関係や住宅の継承可能性の相違を反映して,郊外住宅地の変容の軌跡も大都市圏の郊外住宅地と異なるものとなる可能性がある. 調査の概要 本稿の対象地域は,大分市内の隣接する2つの住宅地(仮に住宅地A,住宅地Bとする)である.大分駅から直線距離にして5_km_ほどのところに位置するが,いずれも開発が始まってから30年以上が経過し,当初入居した世代の高齢化は,すでにかなり進行している.住宅地Aは地元のバス会社によって開発された住宅地である.開発年次は1972~76年,計画戸数は801戸,完成戸数は772戸である.住宅地Bの開発主体は県外の私鉄であり,開発年次は1973~1975年,計画戸数は671戸,完成戸数は480戸である.  発表者は,世代交代に伴う地方都市郊外住宅地の変容に関する基礎的なデータを収集するため,2008年3月に上記2つの住宅地においてアンケート調査を実施した.住宅地Aについては736部,住宅地Bについては599部の調査票をポスティングで配布し,それぞれ141部(回収率19.2%),122部(同20.4%)を郵送で回収した.アンケート調査の結果をふまえ,9月以降には聞き取り調査に応じる意思表示をしている対象者に対するインタビュー調査を実施する予定である.なお本発表では,2つの住宅地を一括して分析する. 親世代の属性  対象者のうち,大分市の出身者は,夫の33.1%,妻の28.5%であった.夫の平均年齢は64.9歳,妻の平均年齢は61.8歳で,夫については60~74歳が52.9%を占める.夫の31.9%は大卒以上の学歴を有している. 1960年当時の男子大学進学率は13.7%であるから,対象者は非大都市圏にあって,同世代一般と比べても高い学歴を有しているといえる.夫の40歳時点での勤務先は,61.5%が官公庁か従業員1,000人以上の企業であり,60.5%は専門職,管理職,事務職などのホワイトカラーであった.  大分市出身者を除くと,夫の場合には,就職(29.0%),転勤(31.5%),転職(8.5%)など,就業に関連した理由を大分市に住み始めるきっかけとしている例が多い.これに対して妻は,結婚によって大分県に転入した者(36.2%)が最も多い.夫に大企業等に勤務者が多いことを反映して,対象者の33.5%は前住居が社宅・官舎であった.対象者の属性や居住地移動から見る限り,人口集中のメカニズムや郊外居住者の属性において,地方都市の郊外住宅地は大都市圏郊外住宅地と共通点が多いといえる. 子世代の動向と親世代との関係  25歳以上の子世代のうち,親世代との同居も含めて大分県内に居住しているのは,男性が47.5%,女性が54.6%である.大まかに言って,子世代の半数は県内に残っていることになる.県内に残留している子世代と親世代の関係は親密であり,別居している既婚の女性では51.3%が週1回以上の頻度で親世代と顔を合わせている.しかし子供と同居することが望ましいとする親世代は3.0%ときわめて少なく,実際に既婚の子世代が同居しているのは9世帯(3.0%)にとどまっている.このように,親子関係においても,中澤ほか(2008)が報告した大都市圏の事例と共通性が見られる.  

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