1974年に刊行された浅香幸雄・山村順次共編による『観光地理学』は、日本における地理学サイドからの観光に関する研究の大きなエポックであった。これまでの観光研究の主体であった観光地の分布、観光客の流動形態という平板的な記載から脱皮させ、地理学の基本的な課題である地域形成や地域構造の解明へと進化させる研究へと発展させる大きな流れを提示した。この後、石井英也、白坂 蕃、淡野明彦、呉羽正昭は地域の全体構造と観光との関係を有機的にとらえ、観光地域の形成についての一般的な説明体系を明らかにした。欧米に遅れをとっていた日本の地理学における観光研究は、20世紀後半において質的に大きな発展をみた。以降の観光に関する新しい研究の動きをもとらえ、今後の地理学としての観光研究の課題を考察する。