地理学論集
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総説
人文地理学における災害研究の動向
祖田 亮次
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2015 年 90 巻 2 号 p. 16-31

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抄録

 本稿は,英語圏の地理学,とくに人文地理学における近年の災害研究の動向を概観するものである。具体的には,2000年以降の英語圏における主要な地理学系雑誌から災害に関係する論文を抽出・吟味し,地理学とその周辺で行われてきた災害研究に関わる議論を振り返りながら,今後の災害研究の方向性について展望する。過去十数年の災害研究を概観してみると,災害研究という領域が比較的新しいものであり,そこで議論される内容も多岐にわたって混沌とした状況である一方,その研究の動向は,空間論としての災害研究,人間-環境関係論としての災害研究,および学際性と社会性を意識する災害研究という,いくつかの主要な関心が存在することが分かる。いずれも,地理学という学問分野の本質に関わる議論であり,新領域でありながら,地理学的研究の原点に立ち返る契機を含んでいる。ただ,現状では,各地の個別の災害に対する現場レベルの具体的分析が先行し,また社会貢献を意識した実践研究の優先度が高くなっているため,災害研究の抽象化や理論化という方向性は,十分に深化しているとは言えない。災害の基礎研究や理論研究の進展が,より本質的な意味で防災や減災,復興などに貢献しうるような仕組みを構築することも,災害研究の重要な学問的・社会的責務であると思われる。

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© 2015 北海道地理学会
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