近年,温泉観光地では空き家となった宿泊施設の急増が問題となっている。札幌市定山渓温泉においては企業や団体が保有していた保養所の閉鎖が相次ぎ,その大半の施設が閉鎖後も現存していることが事前の調査で確認された。そのため,本研究では定山渓温泉において保養所が衰退した要因を調査したうえで,かつて保養所であった施設の現在での活用実態を調査し,近年の温泉観光地に共通した問題となっている宿泊施設の“空き家”について分析も行った。その結果,定山渓温泉における保養所は不況による福利厚生の見直しや利用者の減少,高額の維持費などの要因から,1990 年代以降その数を急速に減らしたことがわかった。また,現存している施設はその多くが利活用されており,小規模宿泊施設として多様化する観光ニーズに応えている例もみられ,宿泊施設以外では従業員寮,倉庫,高齢者施設など多岐にわたる利用がなされていた。しかし,空き家が少ない一方で,取り壊し後未利用地となっている空き地は非常に多くみられた。